1970年の愛の名作がレストアされて再上映
ヴィットリオ・デ・シーカ。映画ファンの方ならご存知かと思います。といっても「映画そんなに詳しくないですよ」「これからいろんな映画観ていきますよ」という方もおられると思います。それでしたら、この機会に是非、デ・シーカという監督の名前と、『ひまわり』が再上映されること、記憶に留めてもらえたらと思います。
ヴィットリオ・デ・シーカは、ロベルト・ロッセリーニ、ルキノ・ヴィスコンティといった人たちと並んで、戦後のイタリア映画を世界中に広めた名監督です。子どもの頃から演劇に魅せられて、俳優としてキャリアを積んでから、39歳で監督デビューしたんですね。家庭劇、生活劇、恋愛劇などを演出し、『ひまわり』『悲しみの青春』『旅路』を監督した後、1974年にこの世を去りました。『自転車泥棒』『終着駅』あたりは特に有名な代表作です。多くの評論家、批評家、映画ファンから今でも支持され続けている、人間愛の映画作家です。というわけで、『ひまわり』はデ・シーカ監督の後年の大ヒット作品になりますね。
第二次世界大戦下の愛と別れを描く悲劇
ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニが夫婦を演じます。二人はもう10作品以上で共演しました。イタリア映画界の名コンビです。夫はソ連戦線へ出向き、終戦後も帰ってこなかった。生死も分からない。きっと生きているはず、と何年も待ち続ける妻は夫の写真を手にソ連へ向かう。「もうあきらめなさいよ」と言われても、「いえきっと生きているはずです」と手掛かりを求めます。女房の一念ですね。根気よく「ご存知ですか?どうですか?」と聞いて回ります。そうしたらやっとこさ遂に「ひょっとして、あの家のひとかしらね」と言われるんですね。「ああ、ようやく!」と思って行ってみると…。希望と期待が、何とも言えないような悲しいものに変わっていきます。
映画『ひまわり』の注目ポイント
これは別れの映画。人と人の、夫と妻の、男と女の、最後。ソフィア・ローレンの演技を見てください。再会を願う一念で、めげずにめげずに歩いて探して見つけ出せた果ての、もう言葉に出来ない悲愴。列車に飛び乗って、涙せずにはいられない感傷。その痛ましさ。けれども、話はこれで終わりではありません。その後の生活は続いていきます。どんなふうになっていくか。もうあの頃には戻れませんよ。もう時間は戻せませんよ。そんな愛と人生の厳しさを念入りに見せました。
劇中、広大なひまわり畑を訪れる場面があります。映画の題名でもあります。『ひまわり』。サンフラワー。そのひまわり畑の輝かしい黄色の美しさ。凄い景観。けれども、この場面で地元の人は「この花の下にはイタリア兵やロシアの捕虜が埋まっています。老人、女、子ども、たくさんのロシア農民が埋まっているのです」と言うんですね。このひまわりは戦争悲劇の象徴でした。戦争犠牲者の鎮魂。そういうのがあるんですね。このお別れの物語も、戦争時代に翻弄された男女の哀しい話です。そんなひまわりの花言葉、「あなただけを見つめる」とか「熱愛」、「愛慕」といった意味があるんですって。余計に涙が誘われますね。
この映画に大きな効果をもたらした劇判の作曲者はヘンリー・マンシーニ。もう大変有名なアメリカの大作曲家ですね。『ひまわり』のテーマは代表作のひとつです。『ティファニーで朝食を』や『いつも2人で』といったオードリー・ヘプバーンの代表作の音楽を手掛け、明快なコメディ作品やサスペンス映画に多くの楽曲を提供しました。さらには『大アマゾンの半魚人』や『スペースバンパイア』のような怪奇映画も作曲しているんですね。そんなマンシーニによる旋律は『ひまわり』の哀切を大いに高めます。ソフィア・ローレンの涙に感極まる方も多いでしょう。
上映企画部 若槻