『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』

シネ・ウインド

○韓国映画連続上映企画、第4弾

 “その日まで、笑顔は封印した”というキャッチコピーに、胃が縮み上がるような辛みが迫るようなヒューマン・サスペンスの新作映画です。これは人間が最も恐れる、最も悲しいことをテーマにしています。我が子を喪うことです。どんなお話でしょうか。

 波の音がする海辺の道を、ボロボロに汚れた格好をした女の人が、疲れ切った顔をして歩いています。この場面が最初に映って始まります。なんだろう、よく分からんけど、大変そうだなぁ、といった感じでした。場面が変わります。とある夫婦がいて、失踪した息子をずっと捜しているといいます。やんちゃ盛りで、最愛の一人息子。いなくなりました。6年間、捜し続けています。ある晩、奥さんが家で、帰ってきた旦那さんに吐露します。

「育児に疲れて、つらかった時ね。『1週間だけ、息子と離れたい』『1人になりたい』そう思ったことがあってね。我が子を捨てたも同然だから、私のせいって思うと申し訳なくてね。またあの頃に戻れるかな…」

 旦那さんは「戻れるよ。戻ろうよ」と応えます。こういうのがファーストシーンです。つらいですね。

奥さんも息子を見つけたい、また家族で暮らしたいと思ってますが、手掛かりもないままで、さすがに疲れたという感じなんですね。もう最初から辛みや悲しみが溢れています。切ないなぁと思っていると、ある報せが入って来る。マンソン釣り場というところに、息子さんによく似た子がいるらしい。桃のアレルギーで、耳の後ろに斑点があって、火傷の痕もあって、足の小指に副爪がある子ですよって。奥さんは「まさか、まさか」と思って、その釣り場に出向きます。そこで従業員や経営者の人に会って尋ねてみても、「知りませんねぇ。おりませんねぇ」と言われました。やっぱり騙されたのかなと思っても、どうにも気になって気になって、夜中に釣り場へ忍び込んで、私有地を一人で調べてみる。すると子供用の靴や、ボロッちい子供服を見つけました。やっぱり息子はここにいるのか。ひょっとすると何処かに閉じ込められているのか。段々と怖くなってきます。

「何としてでも見つけ出したい」という母の慟哭

 ということで、この映画は親と子。子どもと大人。それを描いています。怪しくて、恐ろしい作品です。子を連れて帰りたい母親。生きていくために利用され続ける子ども。自分たちの保身を優先するような大人たち。いなくなった子を捜し続ける親の執念が、血も凍るような事態に直面する様を、スリルサスペンスの限りを尽くして演出しました。監督・脚本にあたったのが、キム・スンウ。これが長編映画第一作目。「子どもを捜している」という横弾幕を掛けた両親の姿、苦心を思い、是が非でも映画化を実現させたかったという労作。この注目監督がこれからどれだけのものを手掛けていくか。大いに期待したいです。

この映画の重要ポイントは、イ・ヨンエの14年ぶりスクリーン復帰作となったところです。女優イ・ヨンエ。以前から韓国作品に注目されていた方なら、ご存知と思います。ドラマ『お宅の夫はいかがですか』や『宮廷女官チャングムの誓い』、映画『JSA』『ラスト・プレゼント』『親切なクムジャさん』で広く知られています。見事な演技力と美貌で大変な話題となり、人気を集めましたが、結婚を機に芸能活動を休止されていました。2016年の『師任堂、色の日記』で13年ぶりにテレビドラマ出演、芸能界へ復帰しました。本作『ブリング・ミー・ホーム/尋ね人』は前述のように14年ぶりの映画出演で、母親としての実体験を演技に活かすべく臨んだ意欲作になりました。この悲しく恐ろしいストーリーにどれだけの演技を披露したか、じっくりご覧になってみて下さい。

上映企画部 若槻