近年、書店で韓国文学を目にする機会が増えました。韓国映画やドラマは私たちの日常にすっかり溶け込んでいますが、文学もまた、そのバラエティの豊かさ、面白さと社会性との融合に目をみはります。
韓国で130万部を超えるベストセラーとなり、女性たちの困難・悲しみを可視化させることで社会にうねりをもたらしたチョ・ナムジュ著『82年生まれ、キム・ジヨン』。新潟市出身の斎藤真理子さんが翻訳を手掛けた日本版(筑摩書房刊)で、初めて韓国文学を手にした方もいるのでは? その映画版がシネ・ウインドに登場します。
原作では、主人公キム・ジヨンの半生が、社会構造がもたらす女性たちの“生きづらさ”の象徴としてルポルタージュのような筆致で綴られます。映画版で唸るのは、その脚色の巧みさ。ジヨンを取り巻く家族・職場の上司・同僚たちの人間模様を膨らませ、会話の端々に原作のエッセンスをさり気なくも鮮烈に織り込んでいきます。回想シーンと現代とをつなぐ構成も鮮やか。原作の特徴である主人公の“匿名性”とはひと味違い、韓国で生きる人々の肉声・生活の匂いを通して、ジヨンの思いが映画ならではの具体性をもって観る者へと届くのです。
ジヨン役チョン・ユミの台詞以上に物語る表情の豊かさ、凛とした佇まい。“妻を思いやる優しい夫”に潜む無理解を絶妙なバランスで見せるコン・ユ。ふたりの息の合ったやり取りに加え、娘への万感を丁寧に見せる母ミスク役キム・ミギョンや、娘との距離感に哀愁を漂わせる父ヨンス役イ・オル(ちょっと杉浦直樹に似ています)など、厚みある俳優陣のアンサンブルもまた、韓国映画の醍醐味です。
上映期間中には、斎藤真理子さんが「キム・ジヨンを読んで韓国文学に関心を持った方」に向けて選んでくださった書籍や、原作小説などを集めた「韓国文学ブックフェア」をシネ・ウインドロビーにて開催します(協力:北書店)。たくさんの書籍が出版されており、どれを読もうか悩む韓国文学ですが、斎藤さんが選出した本(詩や新潟ゆかりの翻訳者が手掛けたものも含まれます)の中から、大切な一冊が見つけられるかもしれません。
お隣の国・韓国の映画・文学をじっくり楽しみつつ、私たちの暮らしや社会に思いを馳せる絶好の機会です。ぜひご来館ください!
(「月刊ウインド」編集部 久志田 渉)