リスボンの片隅、移民たちが暮らす、フォンタイーニャス地区。
明かりも少ないこの街には多くの移民がいる。
路地には独り言をつぶやきながら歩き回る男もいた。
暗闇の空港にひとりの女が降り立った。名前はヴィタリナ。アフリカのカーボ・ヴェルデから出稼ぎに出ていた夫の危篤を知り、ポルトガルにやって来た。だがすでに夫は亡くなり葬儀は3日前にすでに終わっていた。
しかし、ヴィタリナはそのままポルトガルに留まり、夫、ジョアキンの面影を辿るように、夫が借りていた、フォンタイーニャスの薄暗い部屋で暮らし始める。
ヴィタリナは黒い服を身につけ、その部屋には十字架と花と蝋燭、そしていくつかのモノクロ写真が飾られた。
路地に暮らす人々がお悔やみを言いに次々と立ち寄る。
「死んだの?土の下にいるの?」ヴィタリナは言葉を発する。
「リスボン行きの切符が届くのを40年待った。一生待ちぼうけだよ」
「あんた驚いた? まさか私が来るとはね。死ぬときも離れていたかった?」
「私たちは1982年の12月14日に婚姻届を出し、1983年3月5日に挙式をした」
夫の思い出話をしに訪ねて来る者もいる、死に際の様子を話す者もいる。
「あんたはカーボ・ヴェルデに一時帰郷して、たった45日で10室も部屋のある立派な家をひとりで作り、ある日別れも告げずにポルトガルに帰って行った。私はまだ名もない娘を身篭りながら働いた」
ヴィタリナは、近くの荒れた土地に鎌を入れ耕し始める。
路地には神父がいた。独り言を言いながら歩いていた男だ。
ヴィタリナは雨が屋根を強く打ちつける夜にひとりつぶやく。
「この近所の男どもはみんな、悲しげで酔っ払いばかり。つられてあんたも怠け者になって。自分で死へと向かって行った」
教会で神父の礼拝を受けるヴィタリナ。
ヴィタリナの暮らす部屋には誰彼なく訪れ、自らの人生や暮らしの辛さを吐露していく。
丘にある墓地に埋葬された夫。
そこにはヴィタリナと神父の姿があった。
【1日限定特別上映】ヴィタリナ
2021/12/5~12/5