アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台

シネ・ウインド

11/19(土)~12/2(金) シネ・ウインド上映 ※11/22(火)、11/29(火)休館 11/26(土)休映

 ★上映時間→ https://www.cinewind.com/schedule/

 ★劇場受付と公式サイトで13日前より座席チケット販売中 購入はこちら→ https://cinewind.sboticket.net/

今回ご紹介するのは、またしてもフランス映画です。もう何度も言っていますが、このところフランス映画界の活きがよくて、日本の各配給会社さんがいろいろ買い付けて、シネ・ウインドにも何作か届いています。フランスといえば映画発祥の国。映画の発展において長い歴史のある芸術と文化の国。そんなフランスでの映画製作と鑑賞の活発化は、世界的な映画衰退の風潮が囁かれるなか、良い報せなんです。そこで今回は、この秋に上映する『アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台』について、少しだけ書き記してみたいと思います。

 アプローズ(applause)とは拍手喝采のこと。つまりお客さんからの有難い好反応です。そして、「囚人たちの大舞台」。これは犯罪をして服役している連中が、演劇に励み始めて舞台を踏んでいくお話です。それもこれ、1985年にスウェーデンの俳優ヤン・ヨンソンの実体験が基になっているそうなんです。囚人による演劇・舞台公演というと、イギリスの『ラッキー・ブレイク』やイタリアの『塀の中のジュリアス・シーザー』がありました。新鮮なアイディア、というわけではないんですね。今回はフランス映画ということで、どんなもんかと思って観てみますと、最後には「おお、なるほど」と思わされました。日本人からしたら、その人間味に独特のコクを感じるような舞台劇映画だと思います。さて、どういったお話でしょうか。

 ある売れない舞台俳優のおじさんがおりまして、この人が刑務所の「演技のワークショップ」の講師として赴任しました。選ばれた5人の服役囚に演技指導していくうちに演出家魂が燃え滾り、訳アリ連中と一丸となって舞台公演の成功を目指していく、というわけです。この演出家は囚人たちの芝居を見て、「演技は下手だが、リアルだ。上手いだけがリアルと限らない。彼ら自身を見せるような、リアルな舞台を見せたい」と発奮します。しかし相手は犯罪者連中。殺人、強盗、詐欺恐喝、窃盗、薬物密売、この世で一番の曲者連中。字は読めない、台詞は覚えられない、声は張れない、まあ上手いこといかないはずですね。しかしこの演出家のフランス人根性というか、芝居執念が負けないわ折れないわの凄いこと。舞台の一体感、芝居の解放感を説きながら、演技指導に熱血しますね。この何とも知れないような文化活動はどうなっていくのか。

 本作で演目として選ばれるのは劇作家サミュエル・ベケットによる不条理劇『ゴドーを待ちながら』。ウラジミールとエストラゴンという”待つ男たちの寓話(教訓的な例え話)”として世界中で翻訳されるほど有名な戯曲。日本でも多くの演出家、俳優が独自の解釈で舞台化に取り組んでいるほどの名作。田舎の一本道で2人の浮浪者が会ったこともないゴドーなる人物を待っている。取るに足らない会話をしたり、ポゾーとラッキーから哲学を説かれたり、使者の少年がやって来るも、浮浪者たちはゴドーを待ち続け、ついには自殺しようとする、というもの。この人生の不条理劇を囚人たちに演らせようという試み。かつて人々を困らせ、社会に混迷をもたらした人間たちの想像力、表現力に懸けてみようという演出執念。これにはみ出し者たちはどう応えるか。どういう過程を経ていくか。どんな大舞台になっていくか。そういうところがこの舞台劇映画の見せ場ですが、もうこれ以上は詳しく申せません。元はスウェーデンのエピソードではありますが、映画はまさにフランスのヒューマンタッチ。ここに文学と演劇の肌触り、人生の希望と不条理、人間の自由と解放感といったテーマが含まれます。これをじっくり汲み取ってみてください。

上映企画部 若槻

『アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台』

2020年 フランス

監督 エマニュエル・クールコル

製作 ダニー・ブーン、ロベール・ゲディギャン

脚本 エマニュエル・クールコル、ティエリー・ド・カルボニエ

撮影 ヤン・マリトー

編集 ゲリック・カタラ

音楽 フレッド・アブリル

主題歌 ニーナ・シモン

出演 カド・メラッド

ダビッド・アヤラ

ラミネ・シソコ

ソフィアン・カーム

ピエール・ロッタン

ワビレ・ナビエ

アレクサンドル・メドベージェフ