おすすめ作品『マッドゴッド』

シネ・ウインド

おすすめ作品『マッドゴッド

2/11(土)~2/17(金) シネ・ウインド上映 ※2/14休館
★上映時間→ https://www.cinewind.com/schedule/
★劇場受付と公式サイトで13日前より座席チケット販売中 購入はこちら→ https://cinewind.sboticket.net/

今回PICK UPするのは2022年末、好事家たちを震撼させた話題のストップモーションアニメ作品『マッドゴッド』。新潟市でも限定的に劇場公開します。最大のセールスポイントとなっているのはハリウッド特殊効果・アニメーターの最重鎮ことフィル・ティペットによる狂気と執念が成し得たものとされています。

“She-it”

おぉ、フィル・ティペット。ハリウッド映画に親しんできた方々はもう御存知と思います。『スター・ウォーズ』のトカゲ型生物や大型の歩行兵器、『ロボコップ』の治安維持用の最新武装ロボット、『ジュラシック・パーク』の蘇った恐竜たち、『スターシップ・トゥルーパーズ』の昆虫エイリアンの軍勢、『エボリューション』の進化と食物連鎖などなど、ジャンル映画からSF大作、アクション巨編、脳裏に焼き付くような特殊効果と視覚効果の融合表現で観客を楽しませ、スピルバーグ、バーホーヴェン、デル・トロら巨匠たちからも絶大な信頼を寄せられている大御所クリエイター。そんな彼による、長くから温められてきた構想から実験的な試みを取り入れつつ、凄まじいキャリアからの映像トリックの集大成か、大衆娯楽表現の爆発的反動かを感じさせる人智超越の暗黒美術がこの『マッドゴッド』。

Alex Cox as Last Man

シネ・ウインドでの上映に当たって、3月の新潟国際アニメーション映画祭の前座的プログラムでアニメーションへの関心が加速されればという目論見が当初こそありましたが、本作の濃厚な作家性にそのような狙いもぼやけつつ、今となってはこの最大級に怪奇でアンモラルな映画体験でエンドルフィンの分泌を促してもらいたい所存です。

“Assassin”

 SFジャンルのひとつに「ポストアポカリプス」なるものがあります。広義的にはユートピア(理想郷)の対義としてのディストピア(絶望郷)における創造で、ポストアポカリプスはより突き詰められると、文明崩壊、終末感、荒廃した世界観を打ち出して肉付けしていく黙示録のような創作系統として美術、映画、小説、コミック、アニメなど、ホープレスな筆致ながら様々な形で親しまれている、現代では副次文化的な人気ジャンルです。『マッドゴッド』はガチガチの防護服を装備した独りのアサシンが荒廃した地底に潜り、地獄のような暗黒世界を巡っていくという絵に描いたようなポストアポカリプス・ジャンルとなります。

© 2021 Tippett Sudios Inc. https://madgodmovie.com

そこではボロボロの残骸が山住になったわき道を、ドロドロの怪生物が蠢いていたり、大掛かりなマシンロボが稼働し、火炎や電光が轟いて理不尽な破壊再生が繰り返されるような、前人未到のショッキング映像が延々と展開されることになるのですが、ハリウッド最重鎮と優秀な後進アニメーターたちの合流なだけあり、この世のものとは思えない表現力の逞しさに陶酔するばかりです。気色の悪い残酷趣味といってしまえばそれまでなんですが、これもまた美術なんですね。

そう美術とは煌びやかな装飾や詩情豊かな自然美ばかりではありません。血生臭く、不条理で、狂気的で、無遠慮な感性。それもまた歴史であり、人間の芸術。綺麗なものばかりを眺めているばかりでは、人生を謳歌しきれないのだなぁ、とこの映画を観て沁々思いました。ということで、フィル・ティペットが心血を注いだこの『マッドゴッド』で、どれほどの地獄絵図が拡げられるか。スクリーンにてじっくりご鑑賞ください。

宇尾地米人