2023/7/15~7/28
(C)Les Films du Nouveau Monde - Ali n’ Productions - Velvet Films – Snowglobe
2021年、日本初公開されたモロッコ長編映画『モロッコ、彼女たちの朝』(19)は、異国情緒漂うカサブランカの旧市街を舞台に、臨月の未婚女性というモロッコのタブーを取り上げた衝撃のストーリーで大ヒットを記録した。ホブスにムスンメン、ルジザなど、モロッコの伝統パンの登場もパン好きの間で大きな話題になった。モロッコの知られざる一面を日本に伝えたマリヤム・トゥザニ監督が、最新作で取り上げたのは民族衣装のカフタンを作る仕立て屋だ。カフタンとは結婚式や宗教行事などフォーマルな席に欠かせない伝統衣装で、コードや飾りボタンなどで華やかに刺繍されたオーダーメイドの高級品だ。母から娘へと受け継がれる着物のような存在だが、安価で手早く仕上がるミシン刺繍が普及した現在、手間暇かかる手刺繍をほどこすカフタン職人は貴重な存在となっている。トゥザニ監督は伝統を守る仕立て職人の指先にレンズを向け、滑らかなシルク地に刺繍する繊細な手仕事をクローズアップ。消えゆく伝統工芸の美しさを伝える一方で、本作では男性の生きづらさを生むタブーに踏み込み、前作以上に挑発的なラストとした。戒律と法律が異性愛しか許さないモロッコ社会には、真の自分を隠して生きる人々がいる。伝統を守る仕事を愛しながら、自分自身は伝統からはじかれた存在と苦悩する1人の男、ハリムとその妻のミナが、本作の主人公だ。前作のリサーチ中に出会った美容師の男性からインスピレーションを受けたと明かすトゥザニ監督は、愛したい人を愛し自分らしく生きる美しい物語に昇華させた。