『弟は僕のヒーロー』

若槻

2/3㈯~2/16㈮ ※火曜休館

2019年 イタリア・スペイン合作 1時間42分 配給:ミモザフィルムズ

監督:ステファノ・チパーニ

原作・脚本:ジャコモ・マッツァリオール

脚色:ファビオ・ボニファッチ

撮影:セルジ・バルトロリ

衣装:ジェンマ・マスカーニ

編集:マッシモ・クアッリア

音楽:ルーカス・ビダル

出演:フランチェスコ・ゲギ/ロレンツォ・シスト/アレッサンドロ・ガスマン/イザベラ・ラゴネーゼ/ロッシ・デ・パルマ/サウル・ナンニ/ロベルト・ノッキ/アリアンナ・ベケローニ

 イタリアからとても瑞々しい新作が届きました。2015年当時、高校生だったジャコモ・マッツァリオールが、ダウン症の弟ジョヴァンニとともに撮影したショートムーヴィーをYouTubeで公開し、大変な話題に。ここから兄弟と家族の物語が小説化され、イタリア国内外、ヨーロッパ、日本、世界中へ広まり大ヒット。25万部超えのベストセラーが、原作者ジャコモ自らの脚本と『人生、ここにあり!』のファビオ・ボニファッチの脚色によって映画化されました。

 ちなみに原題の意味は『弟は恐竜に夢中』であり、観ているとなるほどと思うのですが、このままだと新しいジュラシックなのか、『REX 恐竜物語』なのか、妙な誤解が生じることもなくはないだろうということで、この邦題になりました。

 ダウン症とは染色体の不分離による疾患で、運動・知能・発語・社会性など発達に遅れがみられ、適切な理解・環境・養育が求められるものです。合併症のおそれもありますので、医療・福祉・教育機関との連携や長い支援も必要とされ、ゆっくりゆっくり、能力が引き出されていくカタチになります。それが分からない子ども同士だと、イジメの対象にされたり、普通と違うんだという目で見られることになるわけです。

 さて、これはマッツァリオール兄弟や家族の実体験に基づいた小説の映像化作品で、ダウン症の弟を「特別な子だよ」と両親に諭された少年の、愛と葛藤が入り交じる多感な青春時代を描きます。小説も映画も脚色がされていますが、劇中の心理感傷は実際のものとして忠実に描かれたそうです。

 少年は家族を愛していますが、我が身のために、つい、ウソをついてしまいますね。悪気があったわけではないのですが、大勢の人を騙すことになってしまった。恥を恐れたために。褒められたことではありませんが、これが人間なんですよね。身に覚えのある人もいるのではないでしょうか。その場しのぎをしたこと。逃げ道を選んだこと。その後ろめたさ。そういったエピソードの、少年の心苦しさが、青春のツラみを真正面から描き出そうという執筆・製作の真剣さが出ていて、見事でした。

 しかし、この作品から溢れてくるもの。ジャコモ・マッツァリオールの視点と筆致は大変ヒューマニスティックです。愛と理解が、幸せに結びつくことをユーモラスに暖かく説きます。これが現代的ハートウォーム。見事なラスト。人間社会が安寧であるために、これは大切な一作になるでしょう。(宇尾地米人)