『ある一生』

若槻

8/3㈯~8/16㈮ 8/6㈫,13㈫休映

2023年 ドイツ=オーストリア 1時間55分 配給:アット エンタテインメント

監督:ハンス・シュタインビッヒラー

脚本:ウルリッヒ・リマー

原作:ローベルト・ゼーターラー

製作:ヤーコブ・ポホラトコ / ディエター・ポホラトコ / ティム・オーバーウェランド / テオドール・グリンゲル / トビアス・アレクサンダー・サイファート / スケイディ・リス

撮影:アルミン・フランゼン

編集:ウエリ・クリステン

美術:ユレク・カットナー/マーセル・ベラネック

衣装:モニカ・バッティンガー

音楽:マティアス・ウェーバー

キャスティング:ニコル・シュミット

出演:シュテファン・ゴルスキー/アウグスト・ツィルナー/イヴァン・グスタフィク/アンドレアス・ルスト /ユリア・フランツ・リヒター/ロバート・スタッドローバー

 例えば『チップス先生さようなら』や『愛情物語』とか、”ある一生”を描いた映画は昔からありまして、名作も多いですね。人生とは劇的で悲喜交々で、これが映画になりますと、芸や技や感覚が合わさって、名作になっていきますね。いいもんですね。この『ある一生』という映画はオーストリアとドイツの合作で、俳優から小説家になって成功したウィーン出身のローベルト・ゼーターラーによる同名小説が原作です。『ルディ/夢はレースで1等賞!』『マーサの幸せレシピ』のウルリッヒ・リマ―が脚本化し、『アンネの日記』(2016)のハンス・シュタインビッヒラーが監督しました。

 ある男の人生を描くとのことですが、男はオーストリアの有名人というわけではなく、歴史に名を残す偉人というわけでもなく、アルプスに生きたとある男の人生だというんですね。それが物語となり、寓話となり、映画になった。これはオーストリアとドイツによる、文学と情景美が融け合う見事な人生賛歌です。

 1900年ごろのオーストリア・アルプスに孤児の少年がやって来る。遠い親戚の農場で暮らすも、酷い虐待を受けて、つらくなる。成長して農場を出たら、日雇い労働者になり、それからロープウェイ建設作業員として頑張って働いていく。それからこの男、どういう人生を送ったか。彼のアルプスでの生涯。どう育ち、何を経て、どんな出逢いと別れがあったのか。そういうお話です。

 アルミン・フランゼンによるキャメラは、人生の少年・青年期から老年期へ渡ってこの主人公の物言わぬ相方であるかのように、生活の頑張りや労働の一生懸命を見詰めていき、同じ景色を眺め同じ空気を吸い込むかのようです。アルプス・チロル山脈で撮影されたという、自然美の奥行が見事ですね。『ゴッドランド/GODLAND』の映像美も凄いものでしたが、アルプス山脈の景観もただごとではありません。この映画はオーストリア自然美とヒューマニスティックな感性が合わさった、息を呑むほど劇的なヒューマンドラマです。

 そういった風光明媚を背景に、生きること、働くこと、愛すること、死ぬことの感慨にひたります。生き抜いていくことの苦労や多幸。人生の最後の最後。そのときが来たら、どんな振り返りになりますかな。いいもんだったと思えますかな。思いたいですね。人生いろいろ。ツラいこともありますし、切ないこともありますが、こういった映画を観れるぶん、人生なかなかいいもんですね。(宇尾地米人)