歌謡曲にパンクはあるか?

2015年10月25日
シネ・ウインド

今年の7月から週に2日ほどテレワーク(在宅勤務)ができるようになった。自宅でラジオを流しながら提案書を作ったりしている。金曜は『ロックンローラー近田春夫の歌謡曲って何だ?』(NHKラジオ第1)を楽しみにしている。その振れ幅の広い濃い選曲とラジカルな生トークは、とてもNHKの平日午後の番組とは思えない。

前回(10/23)のテーマは「歌謡曲にパンクはあるか?」す、素晴らしすぎる、、、、、、ということで、今回はミュージシャン、作曲家、音楽評論家「近田春夫」を紹介します。

伊藤若冲グレン・グールド成田亨山口小夜子今野雄二と故人が続きましたが、近田春夫は存命(現役)です。シネ・ウインド向けのプロフィールとして、手塚眞監督のデビュー作『星くず兄弟の伝説』の音楽担当・製作総指揮と付け加えておきます。


社会人になった頃(1979年)、日本の音楽シーンはイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)がブームとなり、並行するかたちでテクノポップと呼ばれるバンドが続々登場した。自分が好きだったのはプラスチックスヒカシュー。どちらも、音楽以外の才能を持つ人たちが確信犯的に音楽活動をしているのが面白かった。

そのヒカシューのファースト・アルバムのプロデューサーが近田春夫だった。テレビドラマ『ムー一族』に出ていた変なヒトくらいの認識だったが、このアルバムのインパクトは大きく興味が湧いた。

決定的だったのは、ジューシー・フルーツのファースト・アルバム『Drink!』のプロデュース。シングルで大ヒットした『ジェニーはご機嫌ななめ』※は近田春夫の作曲である。
※近年、Perfume、やくしまるえつこなどにカバーされ、今やJ-POPのスタンダードになっている

Drink!

自ら作詞を手掛けた「恋のベンチシート」「恋愛タクティクス」など、テクノポップ・サウンドに乗せた歌謡曲的なアプローチ※は、かつてのグループサウンズの今日的解釈のような見事な出来映えだった。
※近田春夫が自身のバンドで歌謡曲をロックでカバーする挑戦をしていたことは後追いで知った。


同じ頃、雑誌「POPEYE」で連載していたコラム「THE歌謡曲」(後に『気分は歌謡曲』として書籍化)がめっぽう面白かった。郷ひろみやピンク・レディーなどのヒット曲を構造的に解き明かし、ジャケット写真にまつわる考察や、アイドル歌手の”演出”にまで言及する切り口やセンスは音楽批評の新しい形を感じたものだ。

定本 気分は歌謡曲
※文藝春秋から出た復刻版『定本 気分は歌謡曲』。帯に書かれていた「80年代後半のサブカルチャー批評の源流となった」はリアルタイムで読んでいた者として納得がいく。

90年代後半には週刊文春で『考えるヒット』の連載がはじまった。最新ヒットチャートから毎週2枚をピックアップして批評するもので、「歌謡曲評論界の小林秀雄」なる風評を利用したタイトルが秀逸である。歌謡曲がJ-POPに代わっても、近田春夫の批評眼、文章力は全く衰えていなかった。編集者は『気分は歌謡曲』のファンだったに違いない。
考えるヒット (文春文庫)
一時期、『考えるヒット』と小林信彦の『人生は五十一から』(現在は『本音を申せば』に改題)を読むためだけに週刊文春を買っていたほどである。


そして2010年、NHKラジオ第1で「ロックンローラー近田春夫の歌謡曲って何だ?」がはじまり、現在に至る。毎週テーマを決めてリクエストを募るのだが、リスナーからのリクエストが採用される事はほぼない。基本的には近田春夫自身の選曲と批評を楽しむ番組である。「前回のプレイリスト」を見て興味を持った方は、是非聴いてみてください。

最近では、昨年9月から非営利ネットラジオ dublab.jp で、その名も『脱法ラジオ』がはじまった。ピーター・バラカンと近田春夫の両氏がホストDJを務める番組でこれがまためっぽう面白い。発案も命名も近田春夫で、所信表明にある通り「タブーを恐れず本音で語る」非常にスリリングな生放送だ。お二人が元気なうちに、いちどは現地で聴いてみたい。

このブログに書くためにさきほど検索したところ、ちょうど次回が11月4日(水)だった。
http://dublab.jp/2015/10/quattro-labo-presents-dappoooradio-shut-up-n-play-yer-guitar/

まだ当分、近田春夫から目が離せない。


観るならこれを!

さて、11月7日からのシネ・ウインド30周年祭。個人的には特集上映「SOUND&VISION」に注目しています。音楽と映像が光る5作品を日替り上映上映!忘れないように、今すぐスマホのカレンダーに登録しましょう!

ハーダー・ゼイ・カム

●7土、20金


さらば、愛の言葉よ (2D版)

●8日、12木、17火、23月祝、27金


ニック・ケイヴ 20,000デイズ・オン・アース

●9月、13金、18水、24火


ストップ・メイキング・センス

●10火、14土、19木、25水


ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男

●11水、16月、22日、26木

今年2月からはじまった30年目チームブログ、筆者の連載は今回が最後です。またいつかお会いしましょう!