「大地の芸術祭 2015」 メインステージのキナーレ中庭に据えられた中国伝承の島「蓬莱山」を軍艦や飛行機が取り囲んでいるのを見たとき、軽い既視感を覚えた。なんだか見覚えがある、、、「リメイン・イン・ライト」の裏ジャケだ!
1980年発売のトーキング・へッズ4枚目のアルバム「リメイン・イン・ライト」(Remain In Light)」は衝撃的だった。初めてレコードに針を降ろしたとき、1曲目の延々と続くアフロ・ビートと途中で混入する電子ノイズに「80年代になったんだ」と感じた事を覚えている。
LPジャケットの帯には「原始と原子の火花散る出会い」という故今野雄二氏の名コピーが添えられていた、、、ということで、今回は映画・音楽評論家「今野雄二(こんの ゆうじ)」を紹介します。45才以上の方なら「11PM コンちゃん」として覚えているかもしれません。
グラムからアンビエントまで
20代前半位まで、レコードを買うかどうかの指針にしていたのが「ミュージック・マガジン」のアルバム・レビューだった。なかでも今野雄二が入れ込んで(かなり大袈裟に)褒めている作品は(自分にとっては)ほぼ外れがなく、いつしか拠り所となっていた。
デヴィッド・ボウイ 、T・レックス、ロクシー・ミュージック※、ルー・リード、コックニー・レベル、スパークス、10cc、そして トーキング・へッズ、、、みんな今野雄二が教えてくれた。書きだしてみるとケレン味たっぷりの顔ぶればかりだ。
この先もある。ブライアン・フェリーのソロアルバムのカバー曲から、ディラン、ビーチボーイズ、ストーンズに遡り、デヴィッド・バーンが選曲したブラジル音楽のコンピレーションはレゲエ以外のワールドミュージックに耳を傾けるきっかけとなった。イーノが提唱したアンビエントミュージックに至っては「漂う空気のような」音楽の在り方に気付かせてくれた。
年齢と共に好みも変わり、音楽的嗜好は変遷しているが、根源をなす部分は、間違いなく、今野雄二からの刷り込みによって形成されたといえるだろう。
映画はお話ではない、スタイルだ!
音楽だけでなく、映画の選び方も大いに影響を受けている。
『ロッキー・ホラー・ショー』にはじまり『シャイニング』『キャリー』『殺しのドレス』『ブルー・ベルベット』、、、「11PM」の映画紹介コーナーがなかったら、キューブリックも、デ・パーマ(この表記にこだわっていた)も、リンチも出会っていなかったかもしれない。
ポップカルチャーの知識と情報量がとにかく豊富で、単なる作品紹介ではなく、NYのクラブシーンやゲイカルチャーなど、様々な社会風俗、世相、流行なども交え、お茶の間に発信した功績は大きいと思う。
映画・音楽評論家としてどう評価されているかわからないが、作品やアーティストの魅力を自らの感性、表現で伝える文章は(時として思い入れが強すぎて、評論としての客観性は欠いていたかもしれないが)魅力的で大好きだった。
昨年「今野雄二映画評論集成」という本が出た。
ひと目で「空飛ぶモンティ・パイソン」!
巻末に1971年から2009年まで「キネマ旬報」に発表していた年間ベストテンが載っている。それをながめると、1976年からの10年間は今野雄二の好みとリンクして映画を観ていたことがよくわかる。
インターネットの無かった時代、筆者にとって、音楽や映画、サブカルチャー全般の水先案内人のような存在だった。生きていたら、今年はどんなベストテンを選ぶだろうか。
観るならこれを!
シネ・ウインドの近日上映作品にようやく掲載された「ストップ・メイキング・センス」※に注目していただきたい。トーキング・へッズ最盛期のステージをジョナサン・デミ が捉えたロック・コンサート・フィルムのマスターピースである。
※今野雄二は1985年の年間ベストで第3位に選んでいる
ストップ・メイキング・センス
●11月~
日本公開がシネ・ウインド開館と同じ年ということで、以前より上映提案をしていたのだが、爆音映画祭限定上映という条件があり保留となっていた。この10月から通常上映が可能となり、周年祭のタイミングでの上映が実現した。とても嬉しい。
ポリリズムの洪水が押し寄せて来る感じは、当時を知るロック中年だけでなく、ぜひ若い世代にも体験してもらいたい。Pファンクの重要人物 バーニー・ウォーレルが参加しているので「スライ・ストーン」をご覧になったファンク好きにもおススメです。
では、また!