はじめに
2022年の暮れに国内外で大きな話題を呼んだ映画「土を喰らう十二ヵ月」。シネ・ウインドでの満を持しての公開を祝し、座談会を開催しました。参加したのはシネ・ウインドの様々な活動に参加するボランティアスタッフの3人。月刊ウインド編集部の久志田渉と岸じゅん、あれこれサポーターズの大竹かつ代が、熱い想いで2023年2月よりシネ・ウインドで公開の「土を喰らう十二カ月」について語ります。
※ネタバレはありませんので未鑑賞の方もご安心ください
座談会
大竹かつ代◆シネコンで五回見ました。原作を読んだ時は古めかしい感じがして、共感を得られるかな、と思ったんだけど、映画を見たら全然違って、すごくよかった。
久志田渉◆一回しか見ていませんが、ほんわかとした美味しそうな優しい映画ではない。むしろ、苛烈なまでに人間の生と死を見つめる。何より主演のジュリーが怪物的であり、底知れなさ、恐ろしさ、いやらしさを見事にやってのける、俳優沢田研二の凄まじさを感じました。
大竹◆ジュリーの何気ない一言、がすごく自然にツトムさんを演じてたよね。
岸じゅん◆大竹さんと2人、ジュリーファンということでこの場におります。美味しい食べ物が出てくる映画かな、って思ってたら、生きる、というか、むしろ死ぬことについての監督の思いがすごく伝わってきて。なのに、とても気持ちのいい映画、シネ・ウインドでも見れるだけ見たいです。
大竹◆ジュリーの料理する手がアップになって、自分の家で台所やる時にそれと重なって(笑)、丁寧にしなくちゃという思いがひとつ。それと、ジュリーの映画に対する姿勢。何気なくやっているようですごく研究してるんだな、って思ってますます好きになりました。
久志田◆目の前の一日を生きる。水上勉の持っている怖さ。油断ならない映画だね。
岸◆今日一日生きて、明日のことは明日。うん、そうなんだろうな、って思った。
久志田◆松たか子、いいねぇ!
岸◆松さんは監督から、食いしん坊の女性です、とだけ言われて、真知子という役にあれだけの肉付けができた、ってすごい女優だと思う。あの食べ方が好き。エネルギーがあって、同時に可愛い。
久志田◆松さん、声もいいけど、目の力がいい。ジュリーとのバランスもよかった。
大竹◆随分年齢が離れている恋人。
岸◆ツトムさんは料理人ではないから、手際のいい料理のシーンにはしたくなかったって監督が。ファンはみんな知ってるんだけど、ジュリーは普段から普通に料理をする人だから土井先生もそこはすぐに分かったって。
大竹◆器も素敵だったね。白菜を入れる器。
岸◆松さんに抹茶を出したお茶碗とか。
大竹◆茶道の作法とかなり違うやり方で、それが真知子さんらしくてよかった。栗も美味しそうだったなぁ。ジュリーは食べないで松さんに勧めるだけなんだもの(笑)。
久志田◆脇の役者さんたちもみんなよかった。夫婦役の西田尚美と尾美としのりのバランスたるや! 檀ふみもよかった。綺麗だね。
大竹◆義母役の奈良岡朋子がすごくよかった。「朝ごはん食ったんか?」って山盛りのごはんと沢庵出して。
岸◆私は尾美としのりが脇では一番好きだった。ほとんど台詞はないんだけど、彼の代表作になるんじゃないか、って(笑)。そして、水上勉って写真で見ると、ホントに色っぽいんだよね。で、ジュリーをツトムさん役にって思った中江監督が偉い!(笑)
久志田◆音楽については、この映画に大友良英、しかものっけからフリージャズ! 驚いた。作品に緊張感を与えて気持ちいい。
大竹◆何も音楽がないまま進んでいる場面からぱっと音楽が流れると、物語が弾みだす。エンディングの曲も、ジュリーの若いころの歌なんだけど歌詞と歌声が沁みて、全身の力が抜けて椅子から立ち上がれない(笑)。
岸◆シネコンだと物語が終わるとすぐに帰るお客さんが多いんだけど、この映画はずっと歌を聞いて最後の最後まで座っている人が多かった。そして、封切り当初は、ジュリーのファンらしい女性のお客さんが多かったのが、中盤からはご夫婦。後半は男性一人のお客さんが多くなっていったのも嬉しかった。
久志田◆ツトムの生き方を男が見てどう思うか。感想を聞きたい。パンフも素晴らしい。表紙も含めて映画を見てから、そうだったのか、とギョッとすると思う。
大竹◆心に残るものがある映画です。ぜひ見てください。
久志田◆人間は執着を捨ててやがて土に帰っていく。その中でどう生きるか。ジュリーファンじゃなくても、文学が好きな人、特に若い人に見てもらいたい。毎日ご飯を喰って寝る。その繰り返しの深いところに思いを持っていかれるような映画です。
(進行・テープ起こし 岸じゅん)
おしらせ
シネ・ウインドでは上映期間中、関連資料のロビー展示や、映画を見た後のお喋り会、ちょっとしたお土産、など企画も色々考えています。どうぞ、ご参加ください。
第77回毎日映画コンクールにて、沢田研二さんが本作で男優主演賞を受賞されました!
©2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会