「ドロステのはてで僕ら」(2022年 シネ・ウインド上映)に引き続き、劇団〈ヨーロッパ企画〉代表の上田誠さん原案&脚本のSFコメディー「リバー、流れないでよ」が9月にシネ・ウインドにやってきます。主演の料理旅館「ふじや」の仲居さん・ミコトを演じられた藤谷理子さんにお話を聞くことができました。藤谷さんはヨーロッパ企画所属。前作の「ドロステのはてで僕ら」にも、主人公の経営するカフェの店員という大事な役で出演されています。ご出身は、映画の舞台となった京都市貴船ということで、撮影地は子どもの頃からのお馴染みの場所だったとか。質問にひとつひとつ丁寧にお答えいただき、とても楽しいインタビューでした。(岸じゅん)
◆「リバー、流れないでよ」は、2分間のタイムループを繰り返す貴船の一画の物語で、前作「ドロステのはてで僕ら」も、2分間の時間的ハウリングを起こす、というどちらもとても楽しいSFだったのですが、現場ではきっかり2分のループとして撮影されたそうですね。2分間を繰り返す際のエピソードとか、2分間に対する思いとかを教えていただけますでしょうか。
藤谷―呪いのような(笑)ものでして。きっかり2分に収まるようにお芝居をしないといけなくて、それでも、時計を見れるわけでもないので、台本を現場でやってみて、ちょっと足したり、引いたりしながら、同じテンポでお芝居をしていたら、2分になるだろう、というところまで持っていって、撮影を始めてたんですけど、人間なので(笑)お芝居はよかったけど2秒オーバーしました、とか、タイムはいいんだけど、ちょっと移動する時の、カメラさんやスタッフさんの動線がよくなかったですね、やりなおし、とか。初日から十何テイクとか重ねてまして、過酷な撮影になるんだろうな、と(笑)。みんな覚悟はしてたんですけど。でも、やっぱりできあがってみると、(2分は)忙しないけどちょうどいい、というか、3分だと長くてもっといろいろできちゃうし、1分だと短すぎるし。(2分は)絶妙な分数で、頑張った甲斐があったな、と思います。
◆そうですね、2分って意外と長いんだな、と思いました。
藤谷―結構なんでもできるっていうか。2分でどこまでいけるだろう、ってそういうところもあるし。
◆すごくハラハラして面白かったです。
藤谷―嬉しいです。私たちは全く同じことを考えながらやってて、今日は、何段階段を昇れば終わるんだ、とか(笑)。
◆藤谷さん演じるミコトのお着物がとっても素敵でした。私はこれまでの映画の中で、仲居さんの着物っていっぱい見てると思うんですけど、今まで見た仲居さんの着物の中で一番好き! って思いました。お似合いだったし、可愛くって。前垂れがとってもよかった。
藤谷―ありがとうございます。コスチュームは、実際にあの旅館、ふじやさんで本当に仲居さんが着られている制服を貸していただいたんですよ。京都の大原女さんの伝統衣装なんですね。貴船の仲居さんはみんな大原女スタイルで。三幅前垂れ、可愛らしいですね。
◆じゃあ、貴船に行くとあのお着物を着られた仲居さんがいらっしゃるわけですね。
藤谷―本当に仲居さんが本館と別館を(あの着物で)行ったり来たり。道を歩いていると、普通にお膳を持って現れたりします。
◆そして、藤谷さんの髪型も可愛らしくて。
藤谷―ありがとうございます。髪型の話でいうと、結構、ヘアメイクの方がこだわってくださって、(劇中)私の後ろ姿がどうしても多くなるんですよね。カメラがミコトを追いかけたり、ミコト視点で話が進んでいくので、髪の毛の後ろが面白いほうがいいね、とか、絵的にちょっと映える髪型にしよう、ということでやってくださしました。
◆確かに後ろ姿が多かった。で、映画を見ながら、あの髪ってどうやって編み込んでいるんだろう、とか、可愛いな、とか、そういう楽しみもありました。そして、お着物で階段やいろんなところを走り回って、雪も降りましたし、大変だったと思うんですが。
藤谷―着物自体は、仲居さんってたくさん動かれるお仕事なので、動きにくいってことはあんまりなかったんですね。ただ、雪が想定外。というか、一応想定はしていたんですけど、大雪が降ったことによって、予定の撮影日数に収まらなかったんですね。撮影が中止になってしまったり。しかも、タイムループものなので、(ループのたびに)何か変わってたらおかしいはずなんですけど、1ターンめがあって次のターンで雪が降って、みたいなことがありまして、たぶん、時間ものが好きな方だったら、ループなのにおかしいな、と思うと思うんですけど、それはもう、撮影中に脚本の上田さんがいい案を出してくれて(笑)。(これはネタバレになるからここでは書けません。(#^^#))不安に思いながらあの時は撮ってましたけど、映画ができあがったら、雪がいいように働いてたな、という思いもありまして、結果的にはよかったな、と思います。
◆雪が綺麗でしたね。
藤谷―狭い場所で真っ白になるので。お勧めですね、冬の貴船は。雪の降ってる量も撮り順で、このシーンなら雪がいっぱい降ってるほうがいいね、とか、ここなら少なめに、とかあったらしくて、監督さんとスケジュール係さんがスケジュールを組みなおしてくれました。ミコトの心情と雪がリンクするようになっています。
◆着物で雪の中を走られて、私、転ぶんじゃないかとハラハラしたんですが。雪道には慣れておられるんでしょうか、京都の方は。
藤谷―慣れてはいないですね。草履で雪の道を走ったり、崖を昇ったり。相手役の鳥越さんがすごく身体の効く方で、支えていただきながら。でも、(役者たちは)みんな、こけたり滑ったりはしてなくて、撮影現場で転んだのは監督だけです(笑)。私は貴船出身であの辺は地元。アクティブに駆け回ってはいたので、土地のつくりには慣れていたと思います。
◆ミコトさんがループを繰り返して同じ位置に戻るたびに、表情が変化していくのがとても面白くて、私も、その都度のミコトになりきって、ミコトの気持ちでタイムループを感じることができました。順撮りではなかったということで、ご苦労などをお願いします。
藤谷―最初から、ある程度(表情を)決めてました。1周めはこれ、2周めはこれ、3周めはこれって。全部、自分の中で顔を変えたかったので、台本にメモをかいたり、カメラさんが、順撮りじゃなかったにしても、前の周の最後の表情を毎回撮影が始まる前に見せてくれて、それがすごくありがたかった。ここから繋がるようになれて、撮影が進むにつれて楽になりました。
◆ミコトさんの「やだ」が二回あったのですが、それが全然違う「やだ」で、二回目の「やだ」に、ジンときて泣きそうになりました。
藤谷―実は、先に二回目の「やだ」を撮ってたように思います。それこそ同じ台詞なので、意識はしてたんですが、逆に二回目の方が最初に撮れたから、それを考慮して一回目が撮れたかな、と思います。ミコトが成長している様は、監督も望むところで、私も何か変わらないと全くなかった時間になるな、と。ミコトの中ではあったことなので、ミコトは何かを得ていてほしいな、と思いました。
◆「ドロステのはてで僕ら」ほどではなくても、長廻しの多い映画だったと思います。役者さんとして、長廻しが多いというのは撮影現場ではどんな感じなのでしょうか。
藤谷―私はすごく好きです。というのも、私は舞台でお芝居をやることが多いので、繋がっていれば繋がっているほどやりやすいですね。カット、カットで丁寧に作っていくのも好きですけど、その場のライブ感というかドライブ感というか、その時の雰囲気とか勢いがそのままのる感じがあるので、緊張感も含めて私は好きです。
◆物語の中で、旅館の人たちがみんなプロ、というか、きちんと働くんですよね。(自分の仕事じゃなくても)手伝うよ、とか、とっても気持ちのいい職場だな、と思って、それもあって楽しく見せていただきました。
藤谷―そうですね、ホスピタリティをループしても忘れない(笑)。
◆最後に「来てけつかるべき新世界」(ヨーロッパ企画第43回公演 9月16日(月) りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場)についてお願いします。
藤谷―「リバー、流れないでよ」は、タイムループに陥っちゃった人たちの群像SFコメディなんですけど、それを面白いなぁ、と思ってくださった方はきっと気に入るポイントがたくさんある演劇だと思います。群像劇だし、SFだし。映画館とはまた違った感じで、お客さんみんなが笑っている場ってこんな感じなんだ、って肌で感じていただけたら嬉しいです。「来てけつかるべき新世界」は、8年前に初演されたお芝居の再演で、大阪の新世界というちょっと古びたというか、おっちゃんたちが将棋を差しながら串カツを食べているような一画にニューテクノロジーの波がやってきた、という話です。おっちゃんたちがドローンと闘ったり、警備ロボットに挑んだり。ちょっとアンバランスでおかしい、SFっちゃSFだし、吉本新喜劇っちゃ新喜劇だし。でも、(共演の)板尾創路さんは、「泣いてもらう」と言ってます(笑)。私は、初演時と同じ、串カツ屋「きて屋」の娘・マナツを演じます。どうぞ、観にいらしてください。
★「リバー、流れないでよ」上映 9/15(日)18:30~
ゲスト:藤谷理子さん&上田誠さん(ヨーロッパ企画)
★ヨーロッパ企画公演「来てけつかるべき新世界」
9/16(月祝) りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
お楽しみに!