彼女は、路上を選んだ。
家もなく、法もなく。
自由と孤独の果てにひとりの少女が死んだ。
時代を切り開いた映画作家、アニエス・ヴァルダの最高傑作。
フランス片田舎の畑の側溝で、凍死体が発見された。
遺体は、18歳のモナ(サンドリーヌ・ボネール)という少女だった。
だがそれ以外に、彼女のことを知る由もない。
警察は、誤って転落した自然死として片付けようとするが、カメラは、彼女が死に至るまでの数週間の足取りを、彼女が路上で出会った人々の語りから辿っていく—。
モナは寝袋とリュックを背負い、着の身着のままヒッチハイクの旅をしていた。
見ず知らずの人から飲み水やたばこの火を借りて、日雇いの仕事を探しながら流浪する。
ガソリンスタンドで洗車のアルバイトをしたり、道すがら出会った青年と宿を共にしたり。
山中でヤギを飼育しながら牧場を営む、元学生運動のリーダーの家族にも出会い、人生を説かれたりもする。出会った人々は、思い思いに彼女について語る。羨ましがる若い女や、蔑む男たち。
ある日、病気に罹ったプラタナスの樹の研究をする、ランディエ(マーシャ・メリル)という教授に出会う。不思議と通ずるものがあった二人は打ち解け、モナも自らの過去を少しずつ語りだす。しかしランディエも結局、モナをどうすることもできず、二人の交流も長くは続かなかった。
その後も、孤独に旅をするモナ。ある時はブドウ畑で働くチュニジア人と出会い、束の間の休息を得るも、彼の仲間に追い出されてしまう。またある時は、盲目の老婆と親しくコニャックを飲み交わし楽しいひと時を過ごすも、招き入れてくれたはずの家政婦に閉め出されてしまう。
モナは次第に荒んでいき、空き家を拠点に盗みやマリファナの売買で生計を立てるグループと行動を共にするようになる。だが、空き家が火事となり、寝ていたモナは命からがら逃げだすのだった
すっかり薄汚れ、食料もなく空腹のまま、身を寄せる家がないモナが辿り着いたのは、ワインの収穫祭さなかの村だった。ワインの澱を投げ合う祭りの狂乱に巻き込まれ、何も知らないモナは恐怖で逃げ惑い、畑に行き着き、そのまま力尽きて路傍に倒れ込んでしまうのだった―。
冬の旅
2023/1/21~2/3
© 1985 Ciné-Tamaris / films A2