《ウインド恐怖映画祭2023》

シネ・ウインド

『食人族 4Kリマスター無修正完全版』

人を喰ったら、歯を磨け!

かつて禁忌を思わせるその存在感に人々は動揺し、戦慄した。嘘か真か定かですらない異国の惨事にトラウマの連鎖が拡がり、未曽有の絶望感は今なお復活を遂げ続けている。これほどブラッシュアップが繰り返される恐怖映像は『悪魔のいけにえ』と『ゾンビ』と『食人族』くらいではないだろうか。今更多くを語るまでもない。喰われるか、齧られるか、嚙み砕かれるか。猟奇が蔓延る緑地獄はいつまでも鮮烈に、平静を貪り荒らしていく。

『ダークグラス』

暗く、紅く、冷徹に。いつも心に残酷を

ホラーの帝王などと称されるダリオ・アルジェントは82歳になろうと邪劇の監督に拘り続ける。その鬼のようで、究極的な執念。盲目の美女が殺意の恐怖にさらされる、これまでに何度も見たようなプロットながら、堂々たる陣立ての撮影構図と鋭利な残酷画によって重鎮の健在を説き伏せてみせる。この不穏でいてアグレッシヴなアルジェント残酷美術が衰え知らずに染まり上がっていて、安堵のあまり強張った表情筋も柔々と緩みきった。

『マッド・ハイジ』

アルプスの少女が、復讐の鬼戦士へ

日本でも馴染み深いスイスの名作児童書が、ナンセンスに再構築されたキワモノ映画となって巡り巡ってウインド上映企画部に目を付けられる。恋人を銃殺され、家族を爆殺されたハイジが復讐鬼と化して独裁者に立ち向かうという構想を、警察官が副業として脚本執筆し、このせいで違法解雇がされて州警察を相手に裁判沙汰になるという、ワケの分からないブッ飛びエピソードまで引っ提げ日本上陸。そりゃあクララも立ち上がりますよね。