エミリオ・エステベス監督最新作。大寒波の夜、行き場を失くしたホームレスが公共図書館を占拠する。
〇”命の避難所”となった公共図書館
この映画はある公共図書館の元副理事がロサンゼルス・タイムズに寄稿したエッセイから着想を得て、完成まで11年が費やされたそうです。どんなお話でしょうか。アメリカのオハイオ州シンシナティ。記録的大寒波により、緊急シェルターがいっぱいで行き場を失ったホームレスの集団が図書館を占拠します。この騒動に関わる主人公の図書館員は役70人のホームレスたちと共に施設に立て篭もることに。やがて館長、刑事、機動隊、検察官、マスコミが関与し、事態はどうなっていくかを描きます。
これは小説や映画などで昔からテーマにされ、現実でも実際に起こり得る”施設占拠”や”籠城”に着目したものです。ある目的や要求があって行動を起こし、巻き込まれる人々がいて、警察組織がやってきて、外部から様子を見つめる人がいて、マスコミの報道によって広く知られる。そこにある人間の苦悶、野心、対立。郁井邦彦の『遊びの時間は終らない』、シドニー・ルメット監督の『狼たちの午後』、ニック・カサヴェテス監督の『ジョンQ 最後の決断』を思わせる人間ドラマのタッチです。アメリカの話ですが、「昼間、図書館を居場所とする路上生活者」というのは、日本でも見られることですね。
〇名優・映画作家エミリオ・エステベス
アメリカ映画がお好きで、よくご覧になる方でしたらご存知とは思いますが、この作品を手掛けたエミリオ・エステベスについて少し紹介したいと思います。『パブリック 図書館の奇跡』では監督・製作・脚本・主演にあたっています。非常に積極的な映画人です。父親がマーティン・シーン、母親がジャネット・シーン、弟がチャーリー・シーン、妹はレネ・エステベスという生まれ育ちが立派な芸能一家です。1980年代、『アウトサイダー』、『ブレックファスト・クラブ』、『セント・エルモス・ファイアー』といった青春映画への出演でよく知られました。当時の人気若手俳優の一団をあだ名した”ブラット・パック”の中心メンバーとして有名ですね。さらに『張り込み』のようなコメディや『ジャッジメント・ナイト』といったアクションスリラーにも主演しました。監督業にも若くから挑戦し、『ウィズダム/夢のかけら』を当時24歳で監督・主演しました。2006年のアンバサダーホテルを舞台にした豪華キャストの群像劇『ボビー』は、ゴールデングローブ賞の作品賞とオリジナル歌曲賞でノミネートされるほど評価されました。『パブリック 図書館の奇跡』は長編映画7作目の監督作品になります。
エミリオ・エステベス監督作品でおすすめしたいのは、聖地巡礼をテーマにしたロードムーヴィー『星の旅人たち』です。あるお父さんが亡くなった息子の遺灰とともに旅に出るお話で、実父のマーティンを主演に、監督・製作・脚本・出演を兼ねています。親父と息子の話を、実の親子で演出するというのがなんとも凄いことですね。そして出来上がったのがしっかりと逞しく美しいヒューマンドラマとなっています。『ボビー』や『パブリック 図書館の奇跡』のような豪華キャストが集まった大作も見事ですが、『星の旅人たち』もセンチメント豊穣な傑作なので、興味ある方は是非ご覧になってみて下さい。
ということで、いま多大な信頼が寄せられるアメリカの映画人エミリオ・エステベスが手掛けた最新作『パブリック 図書館の奇跡』。アレック・ボールドウィン、テイラー・シリング、ジェナ・マローン、クリスチャン・スレイター、ジェフリー・ライトら凄い出演者たちが揃ったドラマ映画です。シネ・ウインドでは10月30日までの上映となっておりますので、どうぞご鑑賞ください。
上映企画部 若槻