1/4㈯~1/17㈮ ※火曜休館
2024年 日本 1時間59分
配給:東風
監督・製作・撮影・編集:想田和弘
製作:柏木規与子
人間と猫 共生への道を探して
瀬戸内海に面した小さな港町、牛窓。総人口およそ7500人あまりのこの地に佇む古い神社「五香宮」は、長年にわたり地域住民とその港町に住み着く多くの猫たちを見守り続けていた。猫たちは自由気ままに街を探索し、住民とじゃれ合い、釣り人から魚をもらい、木漏れ日の下で昼寝を楽しむ。
一見、ほのぼのとした絵画のような光景だが、その裏には複雑で深刻な現実が潜んでいる。猫たちは自然の摂理に従い、繁殖を続ける。旺盛な繁殖によって生まれ落ちた命たちの行く末は決して幸せなものとは言えない。餌や住処の争いや病気の蔓延など自然の過酷さが待ち受けている。
そこで住民たちは、野良猫を捕獲し、不妊手術を施した後、元の場所に戻す、TNR活動というものを行っている。一部の人々には「自然の生き物に対する人間の身勝手な干渉」と批判されることもあるが、生まれ落ちた野良猫の多くが過酷な末路を辿ることを考えると、繁殖という名の下に生まれる命を素直に喜んでいいのか疑問である。
このドキュメンタリーの注目すべきところは、猫と共生する住民たちのリアルな感情だ。増え続ける猫の管理や糞尿被害、観光地化への懸念。町内会では「誰がどこまで責任を持つのか」が議論され、住民間で意見が対立することもしばしば。猫たちのために日々世話を続ける人もいれば、反対に増加に頭を抱える人もいる。
住民たちの姿を通じて、人と猫の共生という言葉の難しさが浮かび上がってくる。この作品が映すのは決して港町の住人と猫たちの「ゆるふわ」な暮らしではない。牛窓だけの問題ではない、私たちが直面している、人間と猫の共生。その在り方に一石を投じた作品だと感じる。(長谷川能活)(月刊ウインド2025年1月号より)