2/8㈯~2/21㈮ ※火曜休館

2023年 メキシコ
2時間5分
配給:アット エンタテインメント
監督・脚本:クリストファー・ザラ
製作総指揮:ハビエル・ウィリアムズ / アベリーノ・ロドリゲス / パトリシア・サンチェス
製作:ベン・オデル / エウヘニオ・デルベス / ジョシュア・デイビス
撮影:マテオ・ロンドノ
美術:ホアン・サンティソ
衣装:ルピタ・ペキンパー
編集:エウヘニオ・リチェル
音楽:パスクアル・レイエス / フアン・パブロ・ビラ
音響編集:マルティン・エルナンデス
出演:エウヘニオ・デルベス / ダニエル・ハダッド / ジェニファー・トレホ / ヒルベルト・バラーサ / ミア・フェルナンダ・ソリス / ダニーロ・グアルディオラ
「自分を埋もれさせるな 世界一の生徒になれ」
原題の『RADICAL』は根本的、革新的、本質、といった意味ですね。この新任教師は生徒たちの意表を突き、「間違えることを気にするな。それよりも挑戦していってほしい。むしろ間違えることで正解に近づいていくんだ」と言いました。この映画のポイントのひとつですね。教師や教員は、間違えることが許されません。未来ある子どもたちの指導員だから。先生が間違えれば、子どもたちも間違える。すると親や保護者達が学校へ猛抗議する。世論が許さない。よって、先生とは常に最高の職能が求められるんですよね。

映画の基になった実話は、2011年、アメリカとメキシコの国境に面した町マタモロスの小学校にてセルヒオ・フアレス・コレア教員が実践した革新的教育方法※によってクラス生徒たちの学力が飛躍的に向上した出来事だそうです。※劇中で校長先生が「あなたの教育法は?」と尋ね「教育法?特にありません」と応える場面がありますが。このマタモロスという町は犯罪が日常化しており、麻薬・殺人・銃撃・拉致・誘拐など危険が当然のように横行している状況。そういったリアルな背景も映画の重要なポイントとなります。


メキシコでは有名なニュースとなりましたが、日本人からしたら知らなかった人も多いでしょう。この先生は何を思って子どもたちと向き合うか。そのエネルギーが凄い。子どもたちにテーマを示し、分かりやすい例え話で関心を惹きつけ、気になることを生じさせどう思うか尋ねてみる。生徒たちの答えには「それだ!」「なるほど!」「さすがだ!」と言葉以上に表情と仕草で応じてみせるあたり。子どもたちが発展するとつい興奮してしまうような、この教師の話術と思考力。面白そうに話して伝えて、生徒に考えさせる。これが非常に人間的かつ高度な技能なんですよね。この先生は何が一番大切か分かっていて、何を一番恐れているか自覚しています。「先生はどうして何でもわかるの?」と聞かれたとき、なんて答えたか。それは映画を観てください。「ああ、そうですよなぁ」と沁々しましたね。

演じるのは『コーダ あいのうた』でも教師役(巻き舌で名乗る風変わりな音楽教師)を務めたエウヘニオ・デルベス。南米トップスタァであるこの俳優が見事に演じ遂げました。劇中で先生は英国最高の哲学者ジョン・スチュアート・ミルの存在を示しますが、このことを知っていると、映画がより立体的になります。J・S・ミルは人々の幸福と社会の発展について探求を重ね、その思想は現代民主主義・自由主義の礎になったほど重要ですね。個人と社会の幸福追求ですね。この人は幼い頃から厳格な父親から教育されてきた影響もあり、聡明ながら若くして鬱状態となりました。その辛い時期をも、生き方について探求する機会として他者への共感や幸福追求を主張していきます。セルヒオ先生はJ・S・ミルの思想や探求心を受け継いでいます。これも映画の重要点でしたね。
ということで、映画は授業となり、画面の内外で生徒たちは最も大事なことは何かを察していくようになっています。これが監督や製作の狙いであり、その作りが巧妙でした。所謂、お説教映画ではないからです。ユーモラスで憎たらしく、痛快で、不思議で、アグレッシヴなヒューマニズムが活きています。疑問を解決すること、解決が出来なくなると、あるいは疑問することもなくなれば、文明も社会も滅びますね。そして大人たちが子どもたちの才能やチャンスを摘み取っていく、これほど不幸なことはありません。最後の最後、学習を妨げるものは何か。世界一有名な物理学者の言葉が引用され、泣けてきましたね。例えば義務教育の一環で、生徒たちにこういった映画を観てもらうのも面白いのかもしれません。学ぶことを忘れてしまった大人たちも、この映画から大事なきっかけを得ることもあるかもしれません。(宇尾地米人)

《上映時間》
2/8㈯~2/14㈮ 〇10:00~12:15 ※2/11㈫休館
2/15㈯~2/20㈭ 〇12:10~14:25 ※2/18㈫休館
2/21㈮ 〇12:20~14:35