『ロボット・ドリームズ』

若槻

4/5㈯~4/18㈮ ※火曜休館

2023年 スペイン・フランス合作

1時間42分 

配給:クロックワークス

監督・製作・脚本:パブロ・ベルヘル

原作:サラ・バロン

製作総指揮:サンドラ・タピア

製作:イボン・コルメンツァーナ / アンヘル・デュランデス / イグナシ・エスタペ / ユウコ・ハラミ

アニメーション監督:ブノワ・フルーモン

キャラクターデザイン:アルバート・モンテイス / ブランカ・モントロ / ヤン・エスパーザ

監督補:ナチョ・スビラッツ・モラテ

美術:ホセ・ルイス・アグレダ

視覚効果:パトリシア・アンドラデス / ベネディクト・フェルモン / マウロ・パヴァン / マルコス・ロレンス / サラ・ローゼンバーガー

編集:フェルナンド・フランコ

音楽:アルフォンソ・デ・ビラジョンガ

音響編集:ライア・ピコン / ファビオラ・オルドヨ

 思い入れがある楽曲は、きっと誰にでもあると思います。楽しい思い出、悲しい思い出、恥ずかしい思い出、たった1曲聴いただけで、当時の心境や特定の人物のことを思い出すことなんてあるでしょうか。今作では、アース・ウィンド&ファイアーの『September 』が、主人公であるドッグとロボットの心を繋ぐ楽曲として登場します。劇中、何度も登場する楽曲であり、明るい曲調で物語を盛り上げることに留まらず、場面によって色を変えていきます。

 ニューヨークという大都会で孤独に生活しているドッグ。都会という大きな集団の中で誰とも繋がりのない生活は、孤独をより一層深くさせていくもの。そして孤独は、いつも以上に誰かの存在を求めるものでもあります。ドッグにとってそれはロボットでした。ドッグとロボットは唯一無二の親友として、一緒に楽しい時間を過ごしていきます。

 今作で興味深いところは、ロボットに人間味があるところです。物語に登場するロボットといえば、無機質で感情がないことが前提とされ、感情が徐々に芽生えてくるという描写が多いです。そんな中、今作のロボットは初めからドッグに対して1つの機能としてではなく、自然な友情の精神を抱いて登場します。

 無二の親友となったふたりでしたが、思わぬ出来事によって一時の別れを余儀なくされます。ここからチャプター2、離れ離れになったふたりのそれぞれの物語が始まります。

 私は、人は別れるために出会うと考えています。出会いがあれば、別れがあることは避けられないものです。人は気持ちの良い別れをする為に、互いに良い関係を築こうとするのだと思います。

 別れについて、ドラマ『東京サラダボウル』で主人公の鴻田は「私はね、人はたとえ目の前からいなくなったとしても、 残されたすべての人の中で “かけら”として残っていくと思ってるんだ」と言っています。

 別れはネガティブなイメージがあるけれど、別れたらそれで全てが無駄になるわけではないですよね。むしろ、人として成長できる糧になるものだと思うんです。

 このふたりもまた、お互いに残されたかけらを胸に日々を送り始めます。ビーチに残されたロボットは身体が錆びて動けません。だから、想像を膨らませていきます。ドッグとの再会の仕方、関係について。ロボットにとって、どれだけドッグがかけがえのない存在か伝わってくるシーンでもあります。一方、ドッグは、今までひとりのときは家から一歩も出なかったのに、ロボットを助けるために行動していきます。ロボットをきっかけに今まで出来なかったことに挑戦していく姿は、ドッグの成長と言えるでしょう。

 今作は、人間がいない世界だけど、切なさや儚さといった人間特有の感傷的な感情に寄り添っている作品です。あえて人間で描かないことで、感情に焦点を当てられるようになっているのかもしれません。

 楽しさと切なさが入り混じった、センチメンタルポップな一作。様々な出会いと別れを経験してきたあなたにも、これから様々な出会いと別れを経験するあなたにも観ていただきたい作品です。ぜひ、ご鑑賞ください。

宮下千宙