『氷の微笑』4Kレストア版

若槻

【午後6時の秀作選】第2弾 5/25㈯~5/31㈮ ※火曜休館

1992年 アメリカ 2時間8分 配給:ファインフィルムズ

監督:ポール・ヴァーホーヴェン

製作総指揮:マリオ・カサール

製作:アラン・マーシャル

脚本:ジョー・エスターハス

撮影:ヤン・デ・ボン

編集:フランク・J・ユリオステ

美術:テレンス・マーシュ

特殊メイク:ロブ・ボッティン

音楽:ジェリー・ゴールドスミス

出演:マイケル・ダグラス / シャロン・ストーン / ジョージ・ズンザ / ジーン・トリプルホーン

 《午後6時の秀作選》第2弾にこの作品を選んだことは、内容が内容だけに挑戦的判断でした。公開されたのは約30年前になり、レンタル商品の発売やテレビ放送もありまして、攻撃的な妖艶さを含んだサスペンスは大評判を呼び、女優シャロン・ストーンの知名度を一気に高めました。既にご覧になっている方や、題名だけは知っている、という方も多いのではないでしょうか。有名な邦題は知っているけど、原題を知らない人は意外と多いかもしれません。この映画、原題は『本能』を意味します。

 35mmフィルムのレストレーション作業にあたり、保存されていた劇場公開版のネガは、過激な場面であると検閲されカットされた短縮版であり、約40秒の本編素材は既に消失していたことが分かったが、その後のアメリカ・ヨーロッパ各地の調査によって良質なインターネガが発見され、ヴァーホーヴェン監督の意向に沿う”ノーカット完全版”として、フランスの老舗ヒヴェンティ現像所の修復チームによる4Kレストア作業が行われました。

 サンフランシスコにて、アイスピックによる惨殺事件の捜査を開始した刑事たちは、あるミステリー小説の内容に基づいた事件であることを突き止め、その原作者である美人作家への尋問を開始する。作家は刑事を相手に享楽的かつ挑発的な態度をとりつつも、容疑は薄れていく。段々と、刑事と作家による個人的な探り合いが行われ、次なる事件へと進展。どこか神経質で、病的で、恐ろしく危険な犯罪劇の予感にサンフランシスコ市警が震撼する。この悪質で妖艶なゲームに決着はつくのか。

 

 ということで、1992年、大変な話題となったアメリカ映画ですが、この映画を作ったスタッフの顔ぶれは凄い。『ロボコップ』と『トータル・リコール』を監督したポール・ヴァーホーヴェンはオランダからアメリカへ渡った、御存知強烈な個性と拘りをもった映画監督。『スピード』や『ツイスター』の監督として知られるヤン・デ・ボンも同じくオランダ出身で、ヴァーホーヴェン監督の右腕としてキャメラを務めています。ハンガリー出身の気鋭作家であるジョー・エスターハスがヒッチコックやフィルム・ノワールを想起させるサスペンス・ストーリーを脚本化し、特殊メイクには『遊星からの物体X』のロブ・ボッティン、プロデューサーには『エンゼル・ハート』『ジェイコブス・ラダー』を製作してきたイギリスのヴェテラン、アラン・マーシャルがあたっています。

 もうひとつのポイントはこの映画、カロルコ・ピクチャーズ絶頂期の一作だったことですね。『ランボー』シリーズや『クリフハンガー』ではシルヴェスター・スタローンを、『トータル・リコール』や『ターミネーター2』ではアーノルド・シュワルツェネッガーを、さらにミッキー・ローク、メル・ギブソン、ジャン=クロード・ヴァン・ダムらをスクリーンに輝かせた強力な映画会社でした。倒産するまで錚々たる娯楽大作を連発してきましたが、『ターミネーター2』で最大ヒットを記録した翌年に、この『氷の微笑』を作っていたんですね。

 マイケル・ダグラスとシャロン・ストーンのスリリングな駆け引きが見どころになっていますが、この映画にはジョージ・ズンザが助演しています。ジョージ・ズンザ。大好きな俳優です。ズンザ、面白い名前ですが、ドイツ系なんです。幼少期に難民キャンプで暮らしてから、アムステルダムに移住し、それからアメリカ・ニューヨークに渡りました。『ディア・ハンター』『ハイウェイポリス91』『クリムゾン・タイド』への出演で知られていますが、

『氷の微笑』ではマイケル・ダグラスの相棒刑事として軽口を飛ばしながら事件に関与していく役を好演しています。『クリムゾン・タイド』ではジーン・ハックマン艦長とデンゼル・ワシントン副長の間で葛藤する伍長を演じ、ドラマを盛り上げる重要な役どころでした。トニー・スコット名演出を受けた素晴らしい俳優の一人です。この俳優の立ち回りも『氷の微笑』オススメポイントのひとつですね。(宇尾地米人)