毎週土曜日はシネ・ウインド会員による運営機関「上映企画部」打ち合わせの日です。
バッドエンドの効能
一時期、ハッピーエンドの映画が楽しめない頃がありました。
いくつかのハッピーエンド映画を試したのち、残念ながら悪いのは映画の内容ではなく、自分の問題だと気づいて、そこからはハッピーそうな映画は避けて、でも映画は見たいから、できるだけ暗い演出の予告編になっている映画ばかり見るようになっていました。今となってはその行動自体が引きで見ると少しおもしろいですね。
私には「暗い映画は観ない!なぜなら暗くて嫌な気分になるから」と宣言する友人がいます。確かにその通りだわぁ、どうして好きなんだろう、と考えてみて、現在自分なりにたどり着いた2つの持論がありますので、よければ参考にしてみてください。
- ワクチン接種とか筋トレ的な効能
どういうことかというと、暗い映画では登場人物が理不尽な出来事に次々と遭遇し、何もできず流されていったり、誤った判断をしてどんどん深みに嵌っていくことがありますよね。それを観客として俯瞰した視点で見ると(もちろん没入感のすごい映画だと俯瞰なんてできないこともありますが)、思わず「辛すぎる…救いはないのか…」と感じてしまいます。でも、それをあえて飲み込むことが、実はワクチン接種のような効果があるんじゃないかと思うんです。
観終わった直後は若干気分が重たくなるかもしれません。でもやがてそれも治まり、その辛いストーリーが自分の中に蓄積されていきます。それは経験として残り、いざ現実で理不尽な出来事に直面したとき、映画で見たシチュエーションを思い出して、「こうすれば回避できるかも」と気づけたり、もはや解決が難しい状況において、人間はどのような行動をとるのかと言うことを知ることができたりします。
たとえば「オレオレ詐欺に引っかかった話」を聞くと、「こんな手口があるんだ…気をつけよう」とか「実際にお金をとられた方のその後はこんな感じなのか」など色々なことを感じますよね。それに似た感覚です。
ただし、バッドエンド映画ばかり観ていると気持ちがどんどん沈んでしまうこともあるので、観る頻度は「たまに」がいいかもしれません。
- 辛い現実を持つとき、「自分よりヤバいやつ」を見る
これは少し不躾な意見かもしれませんが、実は大事なことだと思っています。
人生では、誰しも悲しい出来事や理不尽なことに遭遇することがあります。それがとても大きな不幸だった場合、心が立ち直るまでに時間が必要になりますよね。そんなとき、周囲の幸福そうな人たちの話を聞くのがしんどいと感じたり、「そんな暗い顔しないで!」なんて無理に励まされて、かえって辛くなることもあります。また重すぎる問題だと周りに相談なんてできない時もあります。
そんなときに助けになるのが、映画の中に登場する「自分よりヤバい目に遭っている人たち」です。そうした人たちの物語を観て、「この人よりはマシか」と少し気が楽になるもよし、一緒になって不幸な気分に浸りながら勝手に仲間意識を感じるのもよし。映画という娯楽だからこそ、そういう距離感で「他人の不幸」に付き合うことができます。
さらに、そういったバッドエンド映画は作り手が何かしらのメッセージやテーマを込めていることが多いので、映画だけで終わらせずにパンフレットや原作本、関連作品などに手を伸ばして、その背景を深掘りするのもおすすめです。せっかくなら「バッドエンド」を味わい尽くしましょう。
もちろん、ハッピーエンドの映画も大好きです。
笑える映画でニヤニヤしたり、大迫力のアクション映画に圧倒されるために映画館に足を運ぶことも多いです。でも、暗い時期の自分をそっとヨシヨシしてくれるようなバッドエンド映画には、特別な感謝の気持ちがあります。
どうしようもない物語を追体験して、そこから何を得るのか。
以上が私にとっての「バッドエンド映画の効能」です。
そんなわけで、バッドエンド映画、たまにはいかがでしょうか?シネ・ウインドでもきっと登場しますので、ぜひご注目ください!(岩船暢子)
12月現在、上映についてアンケートを実施しています。よろしければ劇場や作品についてご意見・ご感想をお聞かせください。毎週土曜日の上映企画会議にて参考にいたします。
また、書棚横に設置してありますロビーノートにも映画の感想などご記入いただけます。こちらは月刊ウインドに感想のコメントが掲載される場合がありますので、よろしければ一筆をお願いします。
シネ・ウインド上映企画部では、上映作品の選定や、作品紹介をお手伝いしてくれる方を募集しています。上映企画会議は毎週土曜19時より、事務所2Fフリースペースにて。映画館の運営に興味がある方、見学・入部など、お気軽に劇場スタッフにお声掛けください。