荒木 夏実
第1回海と星と空の柏崎映画祭が2024年10月11日〜13日の3日間開催されました。
2日目からの参加でしたが、柏崎を楽しみ映画を楽しみ素敵な思い出となりました。
とても長いので、以下の目次から気になるところをクリックして読んでも良し、★のついているオススメだけ読んでも良しでご自由にお読み下さい。
12日
出発
昼食のラーメン
会場到着『ジョン・レノン 失われた週末』鑑賞
『風よ あらしよ 劇場版』鑑賞
『孤独な楽園』鑑賞
★友人とインドネパールレストラン
13日
まさかのアノ車に遭遇!
★絶品鯛茶漬けと露天風呂で仕上がる
★私大絶賛!『遠いところ』鑑賞
市民の声 シンポジウム Q&A
『枯れ葉』鑑賞
大潟の名店でラーメン
★最後に
出発
2024年10月11日(金)~13日(日)の3日間、柏崎市産業文化会館で開催された第1回海と空と星の柏崎映画祭。まさかの水球大会の開催日と重なり、柏崎はもちろん周辺地域の宿は満室。日帰りで2日間かぁ…と肩を落としていたところ、何と午前チェックイン可能な現場作業員宿泊所のレディース棟に予約が取れた。若干不安だけれど気分は最高!
映画祭当日。ここ最近天気が悪かった新潟だけれど今日は一面の青空の下、高速道路で刈羽まで。まずは宿にチェックイン。本来の目的とは違う利用の仕方なので施設の写真は載せられないが設備はバッチリで安心した。この時点で残念ながら1本目の映画は観られないことが確定した。
昼食のラーメン
インターネットで調べ、柏崎のラーメン店「らぁ麺てっぺん」で鶏らぁ麺しょうゆを食べることに。少し並ぶも注文からサッと提供されたこのラーメン。味はあっさり、しかしコクのあるスープ。美味しい。私はチャーシューが苦手だけれど、ここのチャーシューの柔らかさとスープとのマッチは一級品。食べ終えて満足!いざ映画祭会場へ!
らぁ麺てっぺん食べログ
会場到着『ジョン・レノン 失われた週末』鑑賞
会場のある施設に入るとすぐ左手に映画祭のポスターがあり受付へとつながっている。今日は2本目からの鑑賞なので1日通し券(¥2,500)を購入。すると首からかけるストラップ式の通し券を手渡された。チケットをすぐ失くす私にはとても有難い!会場に入るとスクリーンに映し出された映画祭のイメージビジュアル。シンプルでとても素敵だ。これから観る映画は『ジョン・レノン 失われた週末』。Paul McCartney & Wingsの Goodnight Tonightのベースをコピーして遊んでいたポール派の私。興味はそんなに無い。予備知識なく観たのだが、どうやらジョン夫妻と夫妻の秘書メイ・パン(中国系アメリカ人2世)の奇妙な恋愛話。輪をかけて興味を失っていったのだけれど、メイ・パンの支えがビートルズ解散後のジョンの音楽活動や彼自身の人生を豊かにしたことが徐々に分かっていく。今、訪日中国人に対して騒がれている中でこの映画を観て「やっぱり中国人は」と見るか「難しい状況の中で奮闘した中国人」と見るか「人」と見るか。私は自分の目で見るもの感じるものを大切にしようと思った。
『ジョン・レノン 失われた週末』 公式H P
『風よ あらしよ 劇場版』鑑賞
続いて2本目は『風よ あらしよ 劇場版』。女性解放運動家 伊藤野枝の物語。シネ・ウインドで上映されていたがタイミング合わず観られなかった作品。吉高由里子がとにかく良い。あの自分の気持ちに素直に精一杯生きる様。また最初は伊藤野枝の力になっていた夫が野枝の活躍ぶりと反比例してどんどん落ちぶれていくリアルさを稲垣吾郎が見事に演じる。永山瑛太の大杉栄も素晴らしく良い。女性の生き方や関東大震災と言えばの朝鮮人虐殺も描かれヘビーな内容だ。けれど有名な見慣れた俳優が好演すると届くものは届き、程よい虚構感が事柄との距離感を保ってくれて良い。昔は思想を持つ者は政府から痛い目に遭わされた。今はどうだろう。思想を持って、それを人に伝えることは「してはいけない事」という暗黙の了解を感じている。監督の舞台トークでは吉高由里子の演技に対する姿勢や、既にドラマで放映されているものをどうやって映画化したかなど様々な話をたっぷり聞くことができた。
『風よ嵐よ劇場版』 公式HP
『孤独な楽園』鑑賞
3本目は『孤独な楽園』。主人公の生い立ちがなかなか重く、身近なものが沢山描かれている。外国人就労者、女性の就労、詐欺メール、正体不明な宗教。そして、時間がゆっくり過ぎていく映画。鑑賞直後に思ったことを正直に言うと「今日のラストがこれか…このモヤっとした気持ちを持ち帰るのか…」だった。しかし舞台トークでは監督と俳優2名、客席から照明の方まで登壇してパッと華やかに。この映画には何か引っかかるけれど、確信できない演出がある。そこを観客からズバッと質問が出てやっとスッキリ。
『孤独な楽園』 映画.com
2日目の映画を観て、どれもメッセージが強くて結構疲れた。だがしかし!この後、遠くてなかなか会えない柏崎の友人とご飯を食べに行くのだ。
夕食に友人とインドネパールレストラン
友人と現地待ち合わせでお店にイン。メニューを見ると本格カレーのディナーにしては結構リーズナブル! 私は日替わりのエリンギとチキンのカレー、キーマカレーのセット、シェア用にチャウミン(インドの焼きそば)を頼んだ。今日の映画祭の話をしている最中にセットのタンドリーチキン登場。一目でちょっと引いた。サイドメニューなのにサイズがメインディッシュ級なのだ。そしてお次はナン。そう馬鹿デカいナンだ。友人と二人で「これ、ライスも付いてたよね。丼ぶりサイズだったらどうする?チャウミンも頼んじゃったよ。」と笑いながら不安になる。そうしているうちにカレー2種、ライス、サラダ、ドリンクがやってきた。セーフ。普通のサイズだ。いや、全体的に見れば多い。ライスは日本米だけれど何故かこの店のカレーは日本米に合う。美味しく食べながら色々話し沢山笑い良い時間が流れていく中でチャウミン登場!すごい盛り!けれど不安をよそに全て平らげた!とても良い時間でした!
13日
まさかのアノ車に遭遇!
宿でしっかり眠り、今日も気持ちの良い青空が迎えてくれた。友人が送ってくれた美味しいものリストの中の”鯛茶漬け(湯元館)”に目が止まり、イザ日帰り温泉!車を出発させると広い駐車場の中に見覚えのある車。なんと漫画『頭文字D』に出てくる藤原とうふ店のハチロクだ。新潟市で見たことがあるが、仮面ライダー(新潟には有名な本格派仮面ライダーがいる)より出没度がずっと低いハチロク。思わず車を止め「写真撮ってもいいですか?」と聞くと「運転してみます?」と。ナナナント!本物のハチロクを運転出来るだなんて!自動車学校に通い始めるまで走り屋になる気満々だった私。運転席に乗るとユーロビートが流れている!(アニメ版のテーマソングはユーロビート)久々のマニュアル運転に少しドキドキするもエンストなしで無事発車!ファースト、セカンド、サード!そしてドリフト!までは出来ないが気分は藤原拓海!降車した後もエンジンルームを見せてもらえたり大満足!朝から最高の出だしだ!
絶品鯛茶漬けと露天風呂で仕上がる
ハチロクのオーナーに別れを告げ、広田温泉 奥の湯・湯元館へ!柏崎の山の方に向かい車を走らせると田園風景から山道に。天気の良さが相まって気持ちの良い20分ちょっとのドライブ。どんどん奥に入ると良い感じの用水路が脇に流れ始める。細い道を通り、緑に囲まれた湯元館に到着。佇まいの良い建物。中に入ると濃い茶色の柱に畳、廊下の赤いカーペット。どうやら明治時代に建てた部分も残してあるそう。とても素敵な空間が広がっている。受付に行くと「ちょっと女湯が今混んでますけど。」と言われ温泉まで案内された。小さくて趣のある綺麗な脱衣場。浴場に入るとこじんまりとした内風呂一つと露天風呂一つ。気取らずくつろげる私の大好きなタイプのお風呂。お湯もなかなか良くお肌艶々。そして先客はたった4名。自然の中とてものんびり楽しんだ。
お風呂から上がり、コーヒー牛乳をグビグビ飲んでランチにGO!受付で鯛茶漬け御膳を注文。他のお客さんは釜飯御膳を頼んでいる人が多い。カウンター席に座り目の前のテレビはのど自慢が流れている。しばらく待って運ばれてきた鯛茶漬け御膳が凄かった。鯛の刺身、漬け、イクラ。熱い出汁をかけても生臭さが全くない。そして出汁が美味しいので茶碗蒸しも美味しい!お刺身も新鮮!何なら漬物まで美味しい!私にしては奮発した1,800円のランチ。お値段以上の大満足!
温泉と美味しいご飯で満たされ、これから本当に映画祭に行くのか実感が持てないまま車を走らせ会場に向かった。
※通常宿泊のみ。土日のみ日帰り入浴可。
※日帰り入浴の場合、館内支払いは全て現金のみ。
広田温泉 奥の湯・湯元館 HP
私大絶賛!『遠いところ』鑑賞
最終日1本目『福田村事件』は既に鑑賞済みのため、2本目の『遠いところ』から鑑賞。この映画凄かった。この映画に出会うために柏崎映画祭に来たのかもしれない。題材は沖縄の貧困と若年出産、シングルマザー、家庭問題と重い。けれど、これだけ映画に問題に誠実に向き合った映画、映画の力を持った映画に出会うことはそうそう無い。辛いシーンもあるのだが、見終えた後に暗さを持たせなかった。寧ろ私の中に降り積もっていった主人公(10代シングルマザー)の生きる様が、主人公にとっての子供の存在が、言葉で言い表せ無い気持ちにさせる。尊厳、光。そのようなものを体感する。
また、題材的に若者ばかりが出てくるが俳優たちの演技が素晴らしい。その中でも特に難しい役どころだった主人公役、花瀬琴音(撮影当時10代)の演技が凄い。きちんと10代で10代の母親なだけではない。芯はこういう人間なんだと感じさせながら難しいシーンを繋げていく。映画にたくさん出て欲しい。こんな若手俳優が現れた!と嬉しくなった。
監督のトークでは、やはり俳優たちの見事な演技が話題となりキャスティングや演出方法、どうしてこの問題を映画化したのかに話題が集中した。完全オリジナル脚本で社会問題を描くにはそれ相当な配慮と覚悟が必要だ。しかも監督は私と同い年。この完成度で世に出した監督に「尊敬」の言葉しかない。沖縄では2023年6月に封切り。2024年11月時点でも上映が続いている。『遠いところ』が気になる方は是非このYouTubeを観てほしい。
これは沖縄の問題だけれど新潟でもある話。全国平均年収ランキングで新潟と沖縄は近くにいる。貧富の差が広がる今その割合が増えたら…と思うと、新潟の専門家の話も聞いてみたいと思った。
『遠いところ』 公式HP
市民の声 シンポジウム Q&A
ステージには実行委員長の小林三四郎氏と顧問の寺脇研氏、そして『遠いところ』の工藤将亮監督が登壇。3名で”映画祭”とはどんなものがあるか説明をした。寺脇氏が「今回は上映会のようになってしまった。」と話した。その言葉に今後の柏崎映画祭への期待が大きくなった。柏崎の人たちはぜひ、こんな滅多にない機会を大切にして欲しい。色んな映画祭を知っている映画人が実行委員長と顧問にいる間にぜひ関わって欲しいと思う。
シンポジウムでは柏崎市民に直接問いかけた。どういう映画祭にしたいか? どんな映画を観たいか? 私も色んな思いがあって手を挙げたかったが、柏崎市民の意見が最優先と考えて「途絶えたら手を挙げよう」と思っていた。でも私が手を挙げることは無かった。映画祭の広め方について具体的な提案。子供たちが映画に触れて欲しいから子供用の映画の希望。もっとエンターテイメント性のある映画の上映など次々に具体的な意見が出た。それに対し、映画祭で上映できる映画と出来ない映画があること、予算問題があることを説明した上で来年は市民が希望する映画も上映することになった。
映画祭は色んなスタイルがあり楽しみ方も人それぞれ。「映画が上映されているだけ」や「映画好きが行くところ」というイメージを壊して老若男女が楽しみにするイベントになりますように。
『枯れ葉』鑑賞
映画祭のフィナーレはアキ・カウリスマキ監督『枯れ葉』。会場に入ると、今までとは違う雰囲気の観客がチラホラ。確実にアキ・カウリスマキファンだろう。2023年のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した『枯れ葉』。2017年に公開された『希望のかなた』ぶりにアキ・カウリスマキを観る。私は彼の作品はどういう展開だったのかあまり記憶に残らない。今回も失業した女とアル中男のすれ違う恋物語だったくらいしか覚えていない。でも新作と聞けば観ておきたくなる。何だかずっと上手くいかない人たちを眺めて、でも何だか可愛いなと思って。へんてこりんなのに、観た後とても贅沢な時間を過ごした気持ちになる。映画館で観ても良いし、家で携帯の電源と部屋の電気を切って好きな飲み物を片手に観るのも良い。何もせず、ただ観ているだけ。そこで何かを感じるというのがとても良い。フィナーレは食後のコーヒーみたいだった。
『枯れ葉』 公式HP
大潟の名店でラーメン
「大潟のラーショは違う」上中越地域の友人は言う。初めてそれを聞いてから数年越し念願の「ラーメンショップ大潟店」。柏崎から30分ほど車を走らせた。上越市。国道沿いの夜空に煌めく小さな星と赤い看板。眩しい…入店し券売機を見ると様々なラーメンが。まずい。オススメを聞いとけばよかった。取り敢えずネギラーメンとライス小の食券を購入。他の人が食べているラーメンをチラ見しながらカウンター席に着いた。丼がデカい。盛りも良い。少し待つと私のネギラーメンがやってきた。凄い。きっと1本分の白髪ネギが乗っている。ラーメンショップと言えば「お腹を満たすため」というイメージ。だがスープを一口啜った瞬間「大潟のラーショは違う」その言葉が本物だと確信した。無料サービスの必要なし。満足して下道でトロトロと新潟へと帰った。
ラーメンショップ大潟店 食べログ
最後に
今回は割と映画漬けになる映画祭の楽しみ方をしました。それでも、温泉や食べ物も充分に楽しみました。強く記憶に残るのは『遠いところ』。この作品は凄かった。そして鯛茶漬けと温泉。柏崎市民を巻き込んだシンポジウム。
これからこの映画祭がどのように変わっていくか分からないけれど、大切に回を重ねてほしいと思う映画祭でした。今回、作品はそれぞれは素晴らしいのだけど、全て観るにはなかなか重かった。
映画祭には色んな楽しみ方があります。映画祭を言い訳に少し遠出して小旅行するのもあり。1日中映画に浸るのもあり。でも映画漬けになるとゲスト監督や映画祭で会える人たちとの交流がなかなか出来ない。ここが私にとって結構な刺激になります。映画の見方を知ると、どんどん映画が楽しくなっていくのです。もっと言うと映画を真剣に1本つくれば監督の手腕にひっくり返ることもあります。同世代と共感するのも、年齢差がある人の人生経験から見えた映画、映画をつくる人の視点で見た映画を聞くのも凄く良い経験。
私は県内の映画祭がもっと盛り上がるといいなと思って記事を書いています。30代で映画祭に出会い、沢山のワクワクを映画祭からもらいました。これが20代で10代で出会っていたらもっと良かったかもしれないと思います。まだ映画祭に行ったことがない方は、ぜひ映画祭に足を運んでみてください。